「風立ちぬ」感想


 崖の上のポニョ以来、5年ぶりとなる宮崎駿監督最新作。モデルグラフィックスで連載された、零式艦上戦闘機(通称:零戦)の設計者として知られる実在の人物・堀越二郎の半生を描いた同監督のコミックを映画化。


 誤解を恐れず言えば、これは良くも悪くも宮崎駿という人物が初めて手がけた「ヲタク映画」だと評する。商業性、エンタメ性を極力排し、監督ご自身のやりたい事、伝えたい事を表現するのに徹した、おそらく最初で最後の作品になるだろうと小生は考える。

 空に憧れる少年時代にはじまり、関東大震災、未曾有の大不況、そして大きな挫折を乗り越え、航空史にその名を残す稀代の傑作機零戦を完成させるまでを描いた本作。これまでのジブリ作品とは一線を画し、物語の抑揚や大小のクライマックスをほとんど用いず、ただ淡々と堀越氏をはじめ周囲の人々に起こる出来事を見せる事で、ユーザーそれぞれに行間を読ませる余白を与えている。
 一見地味で、場合によっては手を抜いているかのような印象を受けるかもしれないが、画面の中に無限に近いイメージを持たせ、絵と音だけでは表現しきれない、いわば「空気」のようなものまでそこに取り入れる手法は、昨日今日のアニメ人に出来る芸当ではない。アニメ先進国と称されるわが国においても、これだけ繊細且つ確かな仕事をこなされる御仁を、小生は宮崎監督を含め二人、いや三人しか知らない。

 ヌルヌルイキイキ動く、我々のよく知るジブリ作画」久々の復活もさることながら、モブを含む全ての登場人物が機能的にムダなく配置された、キャラクターバランスの巧みさも実に秀逸。特に堀越氏の妹・加代は、ラストの手紙のシーンはもとより、一見仕事人間である堀越氏の人物像を明確にし、同時に「女性、あるいは身内から見た堀越氏」という観点とも取り入れる重要なポジションだったと、高く評価したい。
 加代もそうだが、ヒロインの菜穂子黒川夫人といった、男では到底掴み辛い女性の行動理念を、宮崎監督は何故こうもうまく汲み取り、作品に込められるのか。ひょっとして密かにそっちの気があるんじゃないかと妙な勘繰りをしてしまいたくなるが、少なくとも本やインターネットで得た知識ではなく、長年の経験で骨肉となった蓄積の賜物に違いあるまい(変な意味じゃなく)。

 また、個人的に面白いと感じたのは、要所要所で様々な試み、例えば堀越氏がのちに妻となる女性・菜穂子と紙飛行機を飛ばし合うシーンで、さりげなく戦前から使われているカートゥーンの手法が、そのまま用いられている点。にも関わらず、最新のアニメ技術と並べても違和感や古臭さをまったく感じさせないのは、遊びの天才・横井軍平氏(故人)の言う枯れた技術の水平思考の体現のようであり、本作のテーマの一つであろう「時代を超越する夢と情熱と、それを形作る手仕事への敬意」の具体に他ならないと断ずる。
 

 ただそれだけに、監督が本作に込めたそれらメッセージを、十全とは言わないまでもある程度正確に汲み取れるユーザーが果たして何人いるだろうか、という危惧も少なからず受けるのもまた事実。まがいなりにも年間100本以上を鑑賞する、映画ヲタクの末席の汚す小生のような者ならまだしも、鑑賞するのは宮崎駿という名だけで映画館に足を運ぶ、いわゆる普通のお客さんがほとんどのはず。
 もちろん、高卒低所得の小生が監督の考えを完全に理解できるわけはなく、多くの方は小生なんぞよりよほど理解力も読解力も長けてらっしゃると存じてはいるが、最初から「子供向けではない」と公言されているものの、それでも「あのジブリだから」と期待していた方々が、このすこぶるエンタメ性の薄く、且つ航空機に多少なり知識のある者にしか分からない専門用語が飛び交う本作を、本当に「イイハナシダナー」以上のモノを得て会場から出て来られるか。場合によっては、ただ退屈な映画だったと切り捨てられる可能性も少なくはあるまい。
 その意味で、冒頭で述べたとおり、小生は本作を「ヲタク映画」と評さざるを得ない。自分のしたい事、やりたい事を貫けば、着いてこれない者が出てくるのが当然。聡明な監督ご自身も、その辺り覚悟を決められて制作に臨まれたと若輩ながら察する。

 しかし同時にこう思う。そんなリスクを背負ってまで、監督が本作を制作された意図は一体何なのか。それはきっと、夢だからこそ、好きだからこそ妥協せず、甘えを許さず、プロに徹しなければならない事を、若い世代に身をもって伝えるためではないか、と。失礼ながら、年齢的に考えて宮崎監督が作れる作品は、本作が最後か、良くてもあと1、2本。アニメ業界も含め技術者の減少が長年叫ばれる情勢に対し、もっと夢を追いかけろ、もっと仕事を愛せと、堀越氏の飄々とした姿を借りて伝えたかったのだとしたら。
 だからこそ、ご自身の趣味である大戦時の戦闘機を題材にした作品を、しかしあえて徹底的にプロとして挑み、アニメ人たる自身の集大成として、その仕事ぶりを見せつけたのでは。つまり本作は、本編と制作の両面から、夢を形にする美しさと、その生命の強さを表した、いわば宮崎監督からの生前遺言だと考えるが、いかがだろうか。

 ゆえに下記する採点は、思いのほか低いものとなっているが、これは本作を観た人がどう捉えるかを客観的に想定したため(実は普段のレビューもそうなんだが…)であり、作品そのものの価値を貶める意図は決してないと断っておく。まあおそらくは、監督ご自身もそんな採点がどうとかなんて境地には既にいらっしゃないかもしれないが、とにかく、これから本作を観に行こうと思っているそこの諸兄姉、どうか「だってジブリだし〜」なんて軽い気持ちは吸殻入れにでも投げ捨ててから臨んでいただきたい。


 余談だが、主演のA野については…、個人的に死ぬほど嫌いという点を差し引いても、まったく話しにならんとだけ言っておく。一部では、ヤツを宮崎監督の後継者だと言う頓馬もいるようだが冗談じゃない。ヤツがジブリで監督やったら、今度こそ確実に日本のアニメは完全に潰れる。そもそも、監督がヤツの才能を本当に認めているなら、主演ではなく作画の一つも(長くなるので以下略)。

 なお、ヒロイン役の瀧本美織は意外と良かった。

 ☆☆☆★★++

 それからホモって言うな(笑)、星3つプラスプラス!!

 ところで話は変わるが、作中堀越氏が使っていた定規みたいなモノ。何かを計算する道具のようだが、今もああしたモノが使われているのだろうか。その辺の知識に明るい方、どうかお知恵を。


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