「真夏の方程式」感想


 東野圭吾原作、福山雅治主演で大ヒットを記録した人気テレビシリーズガリレオの劇場版第二弾。美しい海の町・玻璃ヶ浦を舞台に起こる殺人事件と、その裏に隠されたある家族の哀しい秘密に、天才物理学者・湯川学が挑む。


 原作は発売とほぼ同時期に購入・読了。ガリレオシリーズでも異色と呼ばれる本作の映像化を、今か今かと待ち望んできたが、まさに満を持しての劇場公開に恥じない、前作「容疑者Xの献身」に勝るとも劣らない渾身の出来。個人的には今年上半期鑑賞した邦画の中でも、「舟の編む」に次いでベスト2の完成度だったと評したい。


 一部の登場人物やちょっとしたエピソード等、映画化に合わせて多少オミットされた要素はあるにせよ、親の事情で玻璃ヶ浦に一週間滞在する事になった少年と湯川準教授の交流と、そこで起こる事件の顛末を並行して観せる基本的なストーリーと展開は、ほぼ原作どおり。
 玻璃ヶ浦の景観とその名の由来となった宝石のように輝く海底の様子、理科嫌いの少年のために湯川が行った実験を含め、いわゆる文章のイマジネーションに委ねる部分を、うまくビジュアルとして引き落とし、遜色ないものへと昇華させている点も素晴らしく、言うまでもない事だが、主演の福山ましゃ治氏をはじめとした出演陣の演技も見事。
 特に、ヒロイン演じるは、その麗しい容姿とプロポーションもさることながら、ほどよく焼けた肌に相乗されたハツラツさと、どこか影を背負った憂いのある表情で、作品全体の底上げに貢献。その分、吉高由里子はホームレスに尻を触られる以外は正直空気ゲフェンゲフェン…もとい、後述する事件の真相に関する件もひっくるめて、これ以上にない、他のどんな女優も代役は考えられないほど、この役にドンピシャハマっていた。

 また、湯川との出逢いによって触発・影響されていく、もう一人の主人公というべき少年・柄崎恭平からの視点も秀逸で、一見して今時のゆとり世代然とした御子でありながら、その実、物事を論理的に考え、大人達の浅はかさを無自覚に見通す利発さと備え、しかし故に本来踏み込んではいけない暗部に気づいてしまう彼の存在が、曇天のような一連の事件の終着に、ささやかな光をもたらしている。
 小生は普段から、少年・少女を主人公とする物語は須く成長譚でなければならないと断じているが、本作は見事、その条件を完璧な形でクリアしている。努力・友情・勝利なんて言葉が死語になりつつある昨今、逆に考えるとそれだけ大人の方がバカになったとも言えなくもないが、初音ミクの葬式がどうこうなんてバカな事をのたまう前に、我が国はもっと子供達を導けるちゃんとした大人の育成に尽力すべきではないかと、ふと思ってしまった。
 まあ、かと言って大人がみんな湯川のような変人になって困るが(笑)。


 さて、例のよって詳しくは書けないが、この物語の結末に、違和感や言いようのない不条理を感じ、中には法の正義に反し、人道に悖ると憤りを露わにする人もいるだろうと察する。確かに、殺人はいかなる場合においても断じて許される行為ではなく、法の下に等しく処罰されるのがスジである。本作の場合も結果的に事件の真相は闇に隠され、犯人が犯した罪に吊りあうだけの罰を受けたとは、到底考えにくい。
 しかし小生は思う。犯人にとって一番の罰は、自らの取った行動によって、守るべき愛する者達に自身と同等かそれ以上の、払拭しがたい十字架を背負わせてしまった事ではないかと。全ての発端となったある秘密に始まり、互いを愛するがゆえにまた秘密を抱え、罪を犯す。それがついには、毒のように本来何の関わりのないはずの人物までも侵食してしまった事こそ、本作における最大の悲劇ではないかと。
 物語の後、この事件に渦中にいる人物達を待っているのは、おそらくその胸の内に刻み付けられた抗えない後悔と懺悔に苛まれながら、しかし簡単に死ぬ事すら許されない生き地獄だろう。誰に恨まれようと、憎まれようと、時には生命すら狙われようと、ただひらすらに、償いきれないと知れた罪を最後の一瞬まで償い続ける。それは時に、我が身を盾にして守った者にさえも。極刑を含め、想像するだにこれに勝る罰はあるまい。

 そんな彼らに、あるいは彼らのために犠牲となった者達に、残された者は何をしてやるべきなのか。思うに、何もできない。ただできるのは、この事件で「人生を大きく捻じ曲げられかねないある人物」を正しく導き、二度とこのような悲劇を繰り返させない事だけではないだろうか。ラスト前、湯川が語った「時が来たら、彼にありのままを伝えてほしい」という台詞は、この哀しい負の連鎖を断ち切る唯一の方法を示していると小生は信じたい。

 愛は時に凶暴性を孕み、道を誤らせる。しかしその道を正すのも、また愛である。これこそ、本作に秘められた真のメッセージだと断ずる。まあ、愛なんて生まれてこの方見た事も食った事もない小生が言っても、何の説得力もないけどねー(台無し)。


 最後に一つだけ。原作中、湯川が円の面積の求め方が何故「半径×半径×円周率」なのかを説明するシーンがあったが、個人的にはアレをましゃに実践していただきたかった。ちなみに円をケーキの要領で中心線を通るように扇型に均等に切ってだね、それを箱詰めする時みたいに交互に置いて…、面倒くさいからやめよう。気になる人はググって(エー)。

 まあとにかく、それ以外は期待していたとおり、あるいはそれ以上の出来。原作のファン、ドラマシリーズのファン、ましゃのファン、とりあえず映画館へ!!


 ☆☆☆☆★

 実に面白い、星4つ!!


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