「リンカーン/秘密の書」感想
セス・グレアム=スミス原作「ヴァンパイアハンター・リンカーン」を、「ナイトウォッチ」「デイウォッチ」のティムール・ベクマンベトフ監督、「愛についてのキンゼイ・レポート」のベンジャミン・ウォーカー主演で3D映画化。第16代アメリカ合衆国大統領エイブラハム・リンカーンが、歴史の影でヴァンパイアと戦う姿を描くアクションファンタジー。
アメリカ史上もっとも偉大な大統領が、実はヴァンパイアハンターだったという設定は面白いが、正直それだけ。元々、戦国武将が美少女だったり、新選組がイケメン揃いの羅刹だったりと、歴史上の人物を好き勝手に弄り倒す事にかけては他の追随を許さない我が国において、何ら新鮮味のないアイディアではあるものの、それ以前に物語が非常に退屈でつまらない。
斧を使ったファイトスタイル、馬や列車の上で繰り広げられるバトル等、アクション面はそこそこ見応えがあるとはいえ、そういったシーンは思いのほか少なめ。残りは終始、冗長な説明と何の変哲もない会話劇で、気を抜くと一瞬で瞼が重くなり、夢の世界へ直行コース。
また史実に沿わせ、矛盾点をなるべく出さないよう工夫されていながら、その分詰め込みと掘り下げが甘く、例えばリンカーンがどういう経緯で政治家への道を踏み出したのか、どうやって大統領にまで上り詰めたのか、といった部分がばっさりカットされており、シナリオの薄っぺらさが目立つ恰好となっているのはかなり痛い。
何も、本格的な伝記映画よろしく、とは言わないが、政治家らしい動きが中盤の演説一つでは説得力もクソもない。そもそも、母親をヴァンパイアに殺されたからと言って、真実の力とやらでいきなり木を一撃で切り倒すなど、そんなお安い御用な話しがあるかよ。まして、わずか数週間でハンターに必要な技術を憶えるとは、ご都合主義にもほどがある。普通免許取るのだって、もう少しかかるわ。
しかし何より残念なのは、主演のベンジャミン・ウォーカーをはじめ、作品全体にまったく華がない事。まだエジソンが白色電球を発明する前の時代の物語である点を踏まえても、全体的に艶やかさがまったくなく、地味というよりくすんだ感覚。こう言っては悪いが、本来低予算のB級映画として世に出るはずのモノを、製作のティム・バートンが趣味丸出しでムリヤリ超大作に仕上げてしまった印象を受けた。
今でこそ英雄のごとく扱われてるリンカーンであるが、実はその裏で、アメリカ先住民であるインディアンを大量虐殺したり、奴隷解放を高らかに宣言しながら黒人差別には「えっ、何すかソレ?」みたいな感じだったりと、結構アレな御仁だったようであるが、まさかその辺も全部ひっくるめて「悪いのはみんなヴァンパイアですから!!」的に片付けようとしているわけではあるまいな。
どうせエンターテイメントをやるなら、せめて「リンカーンは双子で、大統領とハンターを交代でやってんだよ」とか、「実はリンカーンは改造人間で、いざという時にはマッハ3で高速移動dきるんだよ」とか、あるいは「リンカーンにはものすごく頭が良くてイケメンの弟がいて、無実の罪で死刑囚になった彼を助けるため、身体中に脱獄用の地図のタトゥーを入れてわざと同じ刑務所に収監されたんだよ」…って、それはリンカーンだ(笑)。ともかく、そのくらいのケレン味はほしいところ。
☆☆★★★
ユーザーは目が肥えてるんだから、この程度じゃ満足できないよ。星2つ!