「終の信託」感想

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 現役弁護士でもある作家・朔立木原作の医療小説を、Shall we ダンス?周防正行監督、草刈民代役所広司主演で映画化。実際に起きた事件を題材に、終末医療のあり方を問うヒューマンドラマ。

 単純に構成的な部分だけを評すると、前半から中盤にかけての展開がやや冗長で、話題のベットシーンも含めて、正直蛇足と思える箇所が多々見受けられた。
 その分、後半の草刈民代さん演じる医師と、大沢たかお演じる検事とのやりとりは、非常にスリリング且つ緊張感溢れるよいモノだったのだが、できればソーシャル・ネットワークよろしく、二つの時間軸を交互に折り混ぜながら観せる等の演出もほしかったところ。
 もっとも、あくまで人間ドラマを重視し、あえてそうしたエンターテイメント性を排した観もあり、あのラストに収束させるためとも考えられるが、少々淡白すぎる印象を受けてしまった。

 とはいえ、ストーリー自体は実に面白く、同時に、医療とはただ生命を存えるためだけのものなのか、そこに幸福はあるのか等、観る者に大きな疑問を投げかける作品であった。
 「生きてるだけで丸儲け」とは、某出っ歯座右の銘であるが、果たして本当にそうだろうかと常々思う。もちろん、氏もそういう意味で言っているわけではないのは百も承知だが、例えば本作のように、あるいは極端だがキャタピラー「ジョニーは戦場に行った」のように、四肢を失い、視覚や聴覚、言葉を失い、ただベットに横たわるだけの存在になっても生き続ける事が、果たして本人にとって幸せなのだろうか。
 ならばその苦痛から開放するために、意図的にその命を奪ってもよいのかと問われれば、倫理的に、人道的に、何より常識的に考えて断じてノーだ。しかし誤解を恐れず言えば、こうとも思う。人の尊厳、すなわち人を人たらしめる核のような部分は、生命と同等か、それ以上に重い。それを奪う事が、時に人を殺す事と同義と言えるほどに。
 それを踏まえた上で、もう一度考えてみる。作中の役所氏のセリフのように、身体中をチューブで繋がれ、意識も回復も見込みもないままムリヤリに生き長らえる事が、果たしてその尊厳をも守っている事になるのか。

 まあ、小生ごとき高卒低所得がいくらない知恵絞って考えたところで、明確な答えが出るはずもなく、まして、左耳が聞こえない点と、キレたり疲れが溜まると左目が見えなくなる点以外は五体満足の身でナンボ御託を並べようと、所詮机上の空論に過ぎまい。
 おそらく人類と医学がこの世にある限り、完璧な回答を見る事はないだろう。余談だが、本作のヒール的存在である検事は、あくまで法を司る者として、そうしたヒューマニズムを胸の内に押し留めた人物であると察する。
 全人類がモラルに殉ずる聖人君子でない以上、秩序として社会を律するルールは必ず必要であり、それを感情論を一緒くたに考えるのはナンセンス。ゆえに、彼は断じて悪人ではない。

 
 さて、またしても感想だか何だかよく分からん文章になってしまったが、とにかく、生き死には全ての生命にとって普遍のテーマであるので、こういう作品に触れて「生きるという事」、そして「尊厳とは何か」について考えてみるのも、たまにはいいかもしれない。
 ちなみに、南方仁先生ならどう思ったかなー」なんて余計な事思ったのはナイショなので、バラしたらバラす(エー)。 


 なお念のため断っておくが、小生は何も重病患者や身体障害者の方々には生きる価値はない、などと言っているわけではない。むしろ、一方的にそう区別する事、暴力的にその尊厳を奪う事こそ、殺人にも劣る最低最悪の愚行と断じているつもりである。その辺どうか、誤解なきよう。

 
 ☆☆☆★★+

 浅野さんの役、もうちょっと何とかならんかったんかしら、なんて思いつつ、星3つプラス! 


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