「アウトレイジビヨンド」感想
前作から5年、仮釈放した元大友組組長・大友の、今や政界にまで影響を与えるほど勢力を拡大させた山王会への復讐劇を描く。
毎度の事ながら、北野監督の映像は独創的で非常に美しい。引き算の美学とでも言おうか、ムダな演出を極力省き、各場面の序破急を簡潔に、しかし効果的に観せつつ、あえて余韻となる「間」を残す。
まるで水墨画のように際立たされたその「華」が、暴力と策略と欺瞞に満ち溢れた世界観に、どこか抒情詩を思わせる雰囲気すら漂わせ、同時に現世の闇を鎧う男達の生き様を、滑稽さと愛おしさをも感じさせるモノへと昇華させている。
正直、前作はこの辺りがストーリーとうまく合致せず、少々物足りなく感じてしまったが、今作では見事解消。むしろ、インターバルを経てより一層切れ味を増したキタノブルーに、一ファンとして素直に感動すら覚えた。
意図した事か偶然かはさておき、前作からの相関図が、そのまま登場人物の掘り下げに作用している点も高評価。基本、「絵でそう見えればいいじゃん」主義の監督にしては珍しく(と言っては失礼だが)、群像劇としての面白さも加わり、本作の完成度を乗倍させる事に成功していると断じたい。
主演のビートたけし氏をはじめ、豪華出演陣の熱演、特に、木村一派の子分・嶋を演じた桐谷健太くんは、出演時間こそ短いものの、他の大物俳優に負けない存在感を示してくれた。
個人的には、花菱会のヒットマンという、本来なら無名のアクション俳優辺りが演じそうな役を、天下の高橋克典氏が演じている事に驚きながら、一切口を開かず淡々と冷酷に仕事をこなすその姿に、さすがの貫禄を見た。
途中でお姉ちゃん連れ込んで「フン!フン!」とやりだしたらどうしようかと思ったが(笑)、本来主役級の俳優が、こうした端役でも出たいと言わしめる北野監督の凄さを、改めて認識させられてしまう。
ちなみに余談だが、ホテルのレストランのウェイトレスを演じていたのは、所ジョージ氏の実の娘だったりする。
さていきなりの私見だが、本作には北野監督、というより芸人ビートたけし氏の人生哲学が、ふんだんに盛り込まれていると察する。
たけし氏自身、芸人として成功するまでに、長い下積み時代があった事は、既に周知のところ。その間はもちろん、売れっ子になってからも、幾多の芸人、あるいは他の著名人の栄枯盛衰を目の当たりにしてきたに違いあるまい。
そんな中、自分が今この地位にあるのは、その下で自分を支えてくれた人々、場合によっては蹴落とした人がいる事実を、氏は思いのほか強く心に受け止めているという。
それは、かの名曲「浅草キッド」誕生のきっかけとなった故・ポール牧氏とのエピソードをはじめ、数々の逸話からも窺い知れる。
つまり本作は、競争に敗れて底辺をさまよう、いわゆる「負け組」と呼ばれる者たちが、自分達を踏み台にしてのし上がった者達へ報復を遂げる物語であると同時に、礼節と仁義を忘れた者へのアンチテーゼを、一度死んだはずの男なりの落とし前という形で描いたのではないかと、小生は思う。
(もちろん、成功には努力と忍耐と、何より才能が必要なのだが)
もっとも、こんな高卒低所得の見解など、監督ご自身からすれば「ああ、アンタがそう思ったんならそうじゃないの?」とあっさりはぐらかされるのがオチだろうが、あながち間違ってもいないと勝手に自負してみる。
ある意味、北野監督版「許されざる者」といった雰囲気もあり、前作未見でも充分に楽しめる内容。相変わらずお得意の拷問シーンは、観てるだけで「イタイタイイタイ!」と叫びたくなるようなエグさだが、Vシネ以外でこういう作品が取れる監督の人望と才能を確認する意味でも、必見の一本。
☆☆☆★★+++
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