「天地明察」感想

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 冲方丁原作の同名時代小説を、おくりびと滝田洋二郎監督、V6岡田准一主演で映画化。江戸前期、得意の算術を用いて、日本の正しい暦作りに尽力した囲碁棋士安井算哲(のちの渋川春海)の半生を描く。

 現在広く使われている数学テクニックの多くが不明、ましてやコンピューターも高性能天体望遠鏡もなかった時代、文字通り人の手足と持てる知恵の全てを使い、途方もない時間をかけて星々の動きを観測、明らかにしたその労力と執念には、もはや尊敬や賛辞を超えて、ただただ脱帽する他ない。

 そんな算哲の奮闘ぶりに加え、彼を支え、助け、時に叱責する人々の日常を、当時の暮らしを事細かく調べ、再現したであろうリアリティ溢れるタッチで、ユーモラスに、ドラマチックに描いている。
 原作のよさもあってか、小難しく退屈になりかねない題材、しかも約2時間半という長尺にもかかわらず、終始飽きる事なく、それどころか思わず笑ってしまうような場面も多々あり、気がつけばあっという間に会場のライトが点灯。計り知れない偉業を成し遂げた算哲の姿に、同じ日本人としての誇らしさと心地よい感動だけが、胸に残った。

 小生が個人的に絶賛したいのは、いわゆる「ギャグ」でムリヤリ笑わせようとするのではなく、例えば落語のように、あくまで人々の日常の営み、何気ない会話や言動によって、おかしみを生み出している点。
 バカな恰好したヤツがバカな事をするのが面白いと勘違いしている輩があまりに多い昨今、こういった上品で知的な笑いの取り方と大切さを、我々はもっと知るべきだと率直に感じた。
 もっとも、それを成す為には、相当な知恵と知識とセンスが必要になるのだが…。

 さらにもう一つ。これだけの事をやってのけた算哲が、実は大天才でも何でもなく、数々の失敗と挫折を乗り越え、ようやく一つの結論に辿り着いたというその行程を、包み隠す事なく曝け出している点。
 先日ノーベル生理学・医学賞を受賞された山中伸弥先生も「(学生達に)いっぱい失敗してほしい。9回失敗しないとなかなか1回の成功が手に入らない。私自身もそうだった。」と語っておられるとおり、実は失敗を数多く経験する事こそ、実は成功への最大の近道なのだと、本作は雄弁に物語っているように思える。
 他所の国の技術や文化を堂々とパクり、しかも何ら悪びれる様子もなく「成果を出せば問題ないニダ!」などと平気でのたまう国もどこかにあるようだが、そういう連中も含め、我が日本の未来を支える学生達にこそ、この素晴らしいメッセージを受け取ってもらいたいと願う。


 正真正銘、笑って泣けて、しかもタメになる最高のエンターテイメント作品。日本人なら必見!!

 ☆☆☆☆★+

 星4つプラス!!

 ところで疑問。今の中国から持ってきて、そのまま何百年も使い続けてきたという授時暦をはじめとした暦。中華皇帝=神の化身だった時代、地球が球体である事はキリスト教のそれと同じく、神への冒涜としてタブー視されていたのでは?
 地球の自転を計算に入れずに、正確な星の動きが測定できるのだろうか。何とか有耶無耶にして誤魔化してたとか?うーん、分からん。

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