「デンジャラス・ラン」感想

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 アンストッパブルデンゼル・ワシントン主演・製作総指揮。かつてCIAを裏切り、世界36カ国で指名手配されつつも10年間逃亡を続けた元工作員と、収監された彼の監視を命じられた新人工作員との、奇妙な逃亡劇を描くスパイサスペンス。

 やたら走ってやたら撃って殴り合う、この手の作品にありがちな内容ながら、なかなかに骨の太い作り。狡猾にして最強のスパイと、まだまだ甘さの抜けきらない新人工作員との、いつどういう形で破綻するか分からないギリギリの緊張感に満ちた逃亡劇もさる事ながら、その裏に隠された陰謀、新人の目から見た組織の腐敗、いつしか師弟の絆に似た繋がりを持ち始める二人等、見応えのある要素もバッチリ。

 中でもやはり、デンゼルの熱演は特筆モノで、常に相手を見透かしたようなふてぶてしさと、正義とも悪ともつかない不気味な迫力を併せ持つクールガイ然とした彼が画面に登場するだけで、場の空気がピンと引き締まり、作品世界に一つ上のリアリズムをもたらしてくれる。

 が、それだけに、クライマックスに向かうに連れての失速観、及びあまりに普通なオチに少々ガッカリ。せっかく「心を操る天才」「策士」という設定があるのだから、新人くんはもちろん、CIA上層部ですら予想だにしなかった大仕掛けがあっても良かった気がする。

 また、昨今のアクション映画全般に言える事だが、銃撃戦とカーチェイスのほぼ全シーンに用いられるハンディキャメラの揺れ揺れ映像には、正直生まれてこの方車はおろか船酔い一つした事のない小生でさえ、軽くクラッと来てしまった。
 多少の臨場感は期待できるにせよ、画面は観辛くなるわ、何してるのかよく分からなくなるわ、それと引き換えるだけの効果が得られているとは到底思えない。
 本作で例えるなら、逃亡する犯人(あるいは追う側)の頭にキャメラを括り付け、その視点そのままを撮影する、といった具合に、そろそろ新しい技法か改善策を講じていただけると、我々映画ファンとしてもありがたいのだが…。


 それにしても、十年以上も完全に行方をくらます諜報部員がいたり、極秘で超人兵士の研究をしていたり、CIAという組織はアメリカ国民の血税で何をやっとるんだ。
 アーロン・クロスもわざわざあんな雪山なんぞ行かず、近くのセーフハウスに「客」と偽って潜入すれば良かったのに。もしくはスキンヘッドの眼帯オヤジに連絡すれば、空飛ぶ空母で(以下略)。
 

 ☆☆☆★★+

 星3つプラス!